建設業における職人の人手不足とは
建設業における職人の人手不足が叫ばれて久しいですが、具体的にどれくらい不足しているのでしょうか。厚生労働省の一般職業紹介状況によると、令和2年11月の建設業の有効求人倍率は5.25倍です。これは、5つの求人に対して1人しか求職している人がいないことを意味します。
未だに高い水準ではあるものの、前年の同月と比較するとマイナス0.5%となっており、緩和傾向にあるといえます。災害復興や東京オリンピックによる建設業の需要ラッシュ時には、一時期有効求人倍率が7倍を超えていましたが、その需要が落ち着いたことが大きな原因です。
また、新型コロナウイルスの影響により、2020年4月の建設技術者の新規求人数は大幅に減少しましたが、同年6月にはほぼ回復しました。このことから、建設業におけるコロナウイルスの影響は限定的なものであったことがわかります。
新規求職については、減少傾向が続いていましたが、2020年6月には対前年度比12%増と、大幅な増加がみられました。しかし、同年11月は同マイナス2.7%と、6月に比べると再び減少傾向にあることがわかります。
コロナウイルスが新規求職者に与える影響はまだ測りかねるところが大きいので、今後も注視が必要です。
出典:職業別一般職業紹介状況[実数](常用(含パート)|厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/11602000/000707922.pdf
出典:ヒューマンタッチ総研 国内の人材市場動向数値 (建設業界編)8月|PR TIMES
参照:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001066.000005089.html
建設業において職人が不足する理由5つ
少子高齢化が進み、どの業界も優秀な人材確保が困難な状況に陥っていますが、建設業はその傾向が顕著です。長年、慢性的に職人不足が改善されない理由5つをご紹介します。
1:離職率の改善に向けた対策が不十分
建設業は離職率が高い傾向にあり、新人が入社してきてもすぐに辞めてしまうことが人手不足の問題となっています。厚生労働省の新規学卒就職者の離職状況によると、平成28年3月新規高卒者の建設業における離職率は45.3%と平均の39.2%よりも高いのが現状です。
職人の離職率が高い理由として、長時間労働、休みが少ない、職場の人間関係、体力面の厳しさ、低賃金などが挙げられます。これらの問題を解決するためには、完全週休二日制の導入、若手職人の声を聴く、採用時のミスマッチを避ける、業務効率化の推進などが必要です。
しかしながら、中小企業の建設会社ではこれらの対策が不十分であることが多く、人手不足に陥っています。
出典:新規高卒就職者の離職状況(平成28年3月卒業者)|厚生労働省
参照:https://www.mhlw.go.jp/content/11652000/000557454.pdf
2:若年労働者の開拓不足
厚生労働省の平成29年の調査によると、建設業における若年労働者の割合は、29歳以下が約11%と他の産業よりも低くなっています。
若者が建設業を積極的に希望しない理由として、「きつい、きたない、危険」のいわゆる3Kのイメージが強く、社会保険などの福利厚生が充実していないことが原因のひとつであると考えられます。
こういった若者たちのイメージを払拭するためには、建設業の魅力をアピールする、実際に現場を見てもらうといった機会が必要です。将来を担う若者にもっと興味を持ってもらうためにも開拓していく必要があります。
3:体力が必要な作業であること
建設業の仕事環境は過酷なものです。現場では、季節や天候関係なく長時間外での労働が強いられ、重たい資材を運搬や、機器を扱う必要があります。
また、一歩間違えれば命取りになる環境と隣り合わせであり、精神的な疲労も蓄積されます。心身共に疲労がたまりやすい仕事であるため、職人には体力が求められるのです。
4:長時間労働が横行している
建設業は他の産業と比較して、労働時間が長いことも人材不足の要因です。国土交通省の調査によると、建設業の2016年度における年間総実労働時間は2056時間と、調査対象の全産業の平均よりも336時間も長いことがわかります。
また、休日が少ない事も長時間労働に繋がっています。同調査によると、建設工事全体で約65%が4週4休以下で就業している状況です。人手の確保にはこの長時間労働の改善が不可欠です。
出典:実労働時間及び出勤日数の推移(建設業と他産業の比較)、建設業における休日の状況|国土交通省
参考:https://jsite.mhlw.go.jp/miyagi-roudoukyoku/var/rev0/0119/7581/kc.pdf
5:職人が高齢化している
建設業における高齢化は他の業界に比べて顕著であり、人手不足の大きな要因の一つです。国土交通省による平成29年のデータによると、就業者のうち55歳以上が約34%であるのに対し、29歳以下が約11%となっています。今後、高齢の職人が大量に退職することにより、更なる人手不足が予想されます。
出典:建設産業をめぐる現状と課題|国土交通省
参照:https://www.mlit.go.jp/common/001221442.pdf
建設業における職人の人手不足を解消する方法7選
建設業における職人の人手不足は、様々な要因が絡まり合い、長年解決されていません。どのような解決策があるのでしょうか。こちらでは7つの解決策をご紹介しますので、人手不足の問題を解決されたいとお考えの方は参考にしてみてください。
1:多能工の育成
多能工とは、複数の専門的な工事を1人で担う職人のことです。多能工を育成することが、人手不足の解消に繋がるということで、昨今注目が集まっています。
ある会社では多能工養成訓練を行う施設を開設しました。このように、これからは多能工を育てる流れが大きくなっていくと思われます。
2:職人を大切にする職場づくり
職人の人手不足の理由でも触れた通り、建設業では長時間労働や低賃金の問題、体力的な厳しさがあります。これらの問題を解決するためには、後述する現場のオートメーション化が必要不可欠です。
また、このようなハードウェア面だけでなく、職人の声に耳を傾けるといったソフトウェア面においても、職人を大切にする職場づくりが望まれます
3:SNSを利用した求人情報の発信
求人情報の発信といえば、ハローワークや求人サイトが一般的ですが、若年層に興味を持ってもらうために、SNSを活用する方法もあります。
SNSとはソーシャルネットワークサービスと呼ばれ、TwitterやFacebook、Instagram(インスタ)を指します。「#求人募集」などのハッシュタグをつけて募集をかけることも可能で、広告を出稿しなければ無料なのでおすすめです。
4:若手職人の処遇アップ
若手職人が離職しないためには、処遇改善必要です。様々な問題がありますが、給与面での改善が急務です。建設業の職人の給与は日給制が通例ですが、固定月給制へシフトすることによって、安定して働くことが可能になります。
また、固定月給制にすることにより、途中で独立せずに定年まで勤めたいと希望する職人が増えたという事例もあります。
5:早期離職の防止を目的とした社内制度の整備
週休二日制や固定月給制の導入、各種社会保険の整備、法定外を含めた福利厚生の拡充によって、早期離職を防止することが期待できます。週休二日制にしつつ、固定月給制を実現するためには、作業のオートメーション化などが欠かせません。
また、社会保険の整備は若手の職人確保には必須と言えます。受注できる工事が増えるだけでなく、法定・法定外の福利厚生の拡充は職人が安心して働ける環境のベースとなってくれます。
6:技能教育の推進
建設業の職人の間では「先輩の技術は見て盗め」という考え方が未だに根強く残っており、体系的な研修制度がある会社はまだ多くありません。
しかしながら、少子高齢化が顕著な建設業において、技能教育の推進は重要です。やOFF‐JT、厚生労働省管轄のものづくりマイスター制度の周知や活用が必要です。
7:資格取得支援制度の導入
資格取得支援制度とは、仕事に不可欠な資格や免許の取得を会社が支援する制度のことです。
例えば、高所作業車運転技能講習やボイラー技士など、現場では様々な専門的な資格が必要となる場合があります。それらの講習を受講したり、受検するためには費用がかかりますが、これらの費用を全額、または一部会社が負担することがほとんどです。
オートメーション化で職人不足を解消する方法3つ
オートメーション化とは、機械や機器などが人の手を借りることなく、コントロールや動作などをすることです。
職人の人手不足が深刻である建設業において、オートメーション化は今後欠かせません。こちらでは、ICT(情報通信技術)、AI(人工知能)、BIMツールについて説明します。
1:ICT(情報通信技術)
ICT(情報通信技術)はInformation and Communication Technologyの略で、IT技術の中でも主にコミュニケーションや情報共有の技術のことです。
例えば、図面や工程をスマホやタブレットで確認し、共有できるようにする、映像システムにより遠隔から業務の指示をするといったことが例に挙げられます。
ICTの技術を活用することにより、業務の効率化を図り、人手不足の解消と生産性の向上を望むことが可能です。
2:AI(人工知能)
近年よく耳にするAI(人工知能)ですが、建設業においても活躍が期待されています。膨大なデータを分析し予測することはAIが得意とすることで、これにより単純作業の高速化を実現することが可能です。例えば、構造設計の単純作業や施工現場の画像認識にAIが活用されています。
3:BIMツール
BIMとはビルディングインフォメーションモデリングの略称で、初期段階にバーチャル上で一度建物を構築することにより、設計や施工のミスと工数を減らせるシステムです。
これにより、建築の無駄を省けるので、コスト減や工期短縮が望めます。ゼネコンなどで順次導入されており、今後ますます広まっていくでしょう。
職人の人手不足を解消しよう
建設業における職人の人手不足は、無視できない喫緊の問題です。これには、離職率の高さや業界の少子高齢化などに原因があります。問題を解決するために、多能工の育成や、早期離職を防ぐための社内制度の整備、業界全体でオートメーション化を進めていくことが必要不可欠です。
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