工事進行基準とは
工事進行基準とは、収益認識に関する会計基準、つまり収益認識基準のひとつの考え方であり、工事の進捗度合い(進捗率)に応じて売上(収益)を認識するルールのことを言います。
現在の会計基準においては、原則として、工事進行基準が収益認識基準として用いられています。
工事完成基準との違い
一方で、工事完成基準、という収益認識基準もあります。工事完成基準とは、工事が完成して工事対象物を発注主に引き渡して売上・収益を認識するという収益認識基準です。
工事進行基準は工事の途中でも収益認識可能であるのに対して、工事完成基準は工事が完成して目的物を顧客に引き渡さなければ収益認識ができない、という点に違いがあります。
会計上は実現主義の原則から、本来は工事完成基準が採用されていたのですが、建設工事などの特殊性から工事途中でも成果の実現を見積もることが可能であり、より正確な収益の認識に繋がることから工事進行基準も一定の要件のもとで採用されています。
税務で工事進行基準を取り扱う時のポイント4つ
会計上は、工事がまだ途中であってもそれまで進捗していた部分について、確実に工事の成果が認められるようなケースでは、工事進行基準を採用して、それ以外(一定の要件を充足しないケース)では、工事完成基準を適用するというルールです。
一方で、税務上は一定の要件を満たすような長期大規模工事などは工事進行基準が適用されることになります。
税務上、工事進行基準を取扱う際の主な4つのポイントについて説明します。
1:長期大規模工事の要件について
税務上、長期大規模工事には工事進行基準が強制適用されます。
長期大規模工事の要件を満たさない工事に関しては、工事完成基準と工事進行基準の適用は法人が任意に選択可能、となっています。
長期大規模工事として認められるためには、いくつかの条件があります。
工事に着手してから目的物を引き渡す期日までの期間が1年以上あること、請負った工事金額が10億円以上、請負工事の金額の半分以上が目的物の引き渡し期日から1年以上を経過した期日以降に支払われるものではないこと、という全ての要件を満たさなければなりません。
2:工事進行基準を適用できる工事
税務上、工事進行基準を適用するためには、前述した長期大規模工事としての要件を充足することが必要です。
工事進行基準を適用すると、工事に着工した事業年度から目的物の引き渡し期日が属している事業年度の前の事業年度までのそれぞれの事業年度の確定決算で工事進行基準による経理を行うことが必要になります。
つまり、工事に着工した事業年度において工事進行基準を適用しない場合、翌事業年度以降の年度では、あらためて工事進行基準へと移行することはできません。
3:受注製作のソフトウェアについて
前述したように、長期大規模工事以外の工事に関しては、税務上は、工事完成基準と工事進行基準の選択は法人の任意適用となっていますが、会計上と税務上の取扱いを一致させるためには、受注制作のソフトウェアに関しては工事進行基準を適用するケースも多いと考えられます。
つまり、ソフトウェアの受注制作を行う場合は、会計上も税務上も、ソフトウェア制作に関する進捗率に対応する収益・売上原価を計上します。
4:工事進行基準による未収金は貸倒引当金の対象
工事進行基準における未収金の取扱いについては注意が必要です。
工事進行基準においては、対象物の引き渡しがまだ実施されていない長期大規模工事に関して、工事の収益や費用は工事の進捗度合いに応じて、対象物の完成前に事前に計上するものです。
そのため、進捗度合いに応じた工事の未収金を計上した場合に、これは、売掛金・貸付金・その他の金銭債権、と言うことはできないので、貸倒引当金の対象債権とすることはできません。
税務において工事進行基準の特例3つ
工事進行基準においては、税務上、いくつかの特例が設けられています。それは、損益や費用の計上時期に関してのものや、実務上も重要なポイントであるものです。
それらの特例の中で、主なものを3つほど場合分けして以下に解説します。
1:工事の進捗が初期段階の場合
税務上の工事進行基準の特例としては、工事の進捗が初期段階のケースを挙げることができます。
長期大規模工事でも、当該事業年度の終了時に着手日から6月を経過していない工事で工事進行の進捗度合が20%未満の工事は、工事進行基準の適用による収益・費用はない、とすることが可能です。
しかし、工事進行基準で経理を実施した事業年度以降の事業年度においてはこの限りではない、とされており、各年度で適切な見積りを実施することが求められています。
2:請負対価の額が確定していない場合
次いで、税務上の工事進行基準の特例としては、工事の対価額が決まっていない場合を挙げることができます。
この場合は、工事の原価額と同じ金額を当該工事の請負対価額とすることが可能です。
長期大規模工事
前述したように、長期大規模工事は当該事業年度で工事の進行度合いに応じた全ての収益と費用を認識することが原則です。
しかし、特例として、着工開始した事業年度から当該事業年度の前年度分まで(既往の事業年度分)の収益と費用は、目的物の引き渡しを実施した事業年度まで繰り延べすることが可能になっています。
長期大規模工事以外
長期大規模工事以外のケースでは、工事の原価額と同じ金額を工事の請負対価額をみなすことができます。
また、請負工事の対価額が決まった日を着手した日と認識して経理を実施することが可能です。
ただし、このケースでは、工事に着手した事業年度で、既往の事業年度分の全ての収益と費用を計上しなければなりません。
3:長期大規模工事に該当することになった場合の繰延
任意選択の結果、既往事業年度における収益と費用の金額計上を完成引き渡し時まで繰り延べることが可能である、という特例も挙げることが可能です。
ただし、工事進行基準で会計処理をしたケースで本特例を適用しなかった場合は除かれます。
工事進行基準に関するその他の税務の取扱い
これまでは主に法人税の観点から工事進行基準における税務上の取扱いについて説明してきましたが、法人税以外の税法における工事進行基準における税務上の取扱いに関しても注意が必要なポイントがあります。
本稿では主に消費税等に関する取扱いについて説明します。
消費税等の取扱いに注意
工事進行基準における消費税等の取扱いとしては、工事進行基準に則って計算した収益の金額だけ、資産譲渡などを実施したものとする取扱い(仮受消費税として処理)が許されています。
原則として、売上・仕入に関する工事請負の資産譲渡の期日は目的物の完成・引き渡し日となります(ただし、目的物の引き渡しが不要なケースでは役務提供が全て完了した日)。
例外として、売上に関しては、工事進行基準で計算した収益額だけ資産譲渡を実施したものとし、仕入に関しては、継続適用することを条件とするものの、工事完成引き渡しを実施して未成工事支出金を完成工事原価への振替実施した日が属している課税期間とします。
税務での工事進行基準について正しく理解しておこう
工事における収益や費用の認識には工事完成基準と工事進行基準の種類がありますが、工事進行基準に関しては税務上の特例が設けられています。
税務上、工事進行基準がどのように取扱われるのかを正確に理解しておくことは極めて重要なポイントになります。
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