施工管理の現状と課題
東京オリンピック開催に伴う建設ラッシュを皮切りに、大阪万博に向けたインフラ整備やリニア中央新幹線開通プロジェクトなど、施工管理の需要はどんどん増えています。
それにも関わらず、建設業界は施工管理者の人手不足という深刻な課題を抱えています。特に若手がこの20年で激減していますが、これはなぜなのでしょうか。
この記事では、施工管理での人手不足の理由や解消するための対策などについてご紹介します。
施工管理が人手不足と言われる理由11つ
深刻な人手不足が問題になっている施工管理人材ですが、どういった理由から起こっているのでしょうか。
前述の通り建設業界は今後大きな建設計画がたくさんあり、施工管理の需要はますます増加していく見込みです。今後に向けて施工管理を行える人材を増やしていくためにも、人手不足の理由をしっかりと把握する必要があります。
ここでは、施工管理での人手不足の理由を11個ご紹介します。
1:若者離れが進んでいる
施工管理が人手不足に陥っている最も大きな理由は若手就業者自体がこの20年で激減していることが挙げられます。
全就業人口の高齢化に加え、建設業界へ就業者の若手の割合が29歳以下で約11%と、全産業の平均16%と比較して低くなっています。
建設業界に入職する若手自体は増えているものの、新卒入社で3年目までに離職する率は約30%と各業種と比較しても高く、この離職率を改善する必要があります。
2:リーマンショック時の人材流出の影響が残っている
施工管理に人手が不足している理由として、2008年におこったリーマンショックの影響がまだ尾を引いているということもあります。
この時、建設業界は仕事が大幅に減ったため、多くの人が建設業界から離れました。また、リーマンショック直後は人材採用自体をストップしたメーカーも多く、建設業界に入る若者自体が少なくなりました。
3:雇用が安定していない
企業にもよりますが、意外に多いのが建設業界では雇用の不安定な企業が多いということです。給与が日給制であったり社会保険に加入していないなど、施工管理者が将来の生活に不安を感じる要素が多く、入ったもののすぐに離職するといった人も多いです。
建設業は受注生産なので難しい面もありますが、安心して勤務できる状態にすることが求められます。
4:転居や異動が多い
各現場によって作業場所が変わることも建設業の大きな特徴の1つですが、長い期間、遠方での作業が必要になるだけでなく、転居を伴う異動が生じることも珍しくありません。
建設業界の特性上、作業場所を選べないのはやむをえないですが、転居や異動が多いことにストレスを感じ、離職する人がいる可能性も考えられます。
5:勤務が不規則
建設現場は日中だけ稼働するとは限りません。既に営業している商業施設や工場などでのリニューアル工事などの場合、営業時間を避けて夜間に作業を行うケースが増えているようです。
そのため、そういった施設の工事で施工管理を行う場合には夜勤となり、生活が不規則になる場合も多くあります。また、工事に進捗によっては残業が多く発生するので睡眠時間が削られることになります。
6:労働に賃金が見合っていない
施工管理者の労働は前述の通り、ハードです。
残業時間が長いことや夜勤が発生すること、また作業現場によって勤める場所が変わることもあります。建設業界の仕事はいわゆる3k(労働環境がきついことを指す言葉)と言われますが、それに対して賃金はどうなっているでしょうか。
建設業界の給与水準は上がってきていますが、労働量が多いにも関わらず技術者の給与自体が製造業のものと比較して低いという課題があります。
就業実績に応じた、適正な給与を支給できるように仕組みを見直していく必要があります。
7:職場環境の課題が多い
施工管理者は作業現場で仕事をすることが多くなりますが、建設現場では高所での作業を行ったり電動工具、建設機械を扱うことが多くなります。管理者であっても管理だけではなくこういったものを一緒に使う機会は多いです。
安全には常に気をつけていても、危険と隣合わせである作業現場にいることにストレスを感じて離職する人も少なくありません。
8:人間関係に馴染みにくい
施工管理者は作業現場で過ごすことが多く、さまざまな年代や性格の職人の人達とコミュニケーションを取る必要があります。人間関係を構築するのが難しいことも珍しくなく、それをストレスに感じる人も少なくありません。
前述の通り、高所での作業などもあって緊張感の高い状態であることも多く、場合によっては上司のみならず関連業者から注意を受けることもあることから、離職につながりやすいと考えられます。
9:キャリアアップが見込めない
建設業界の企業の中には、まだまだ昔ながらの年功序列の風土が根強く残っている場合があります。高学歴で入社したにも関わらず、年功序列の壁が立ちはだかり定年間際になっても昇任できないということも珍しくありません。
また、施工管理技士などの資格を取ったとしても、若手の場合はいつまでも見習い扱いである企業もあり、評価されにくい環境に見切りをつけて離れていく人も多いようです。
10:業界内の人材の高齢化
前述の通り、建設業界は若手の離職が続き、新たに入ってくる人自体も減っています。一方で既にいる技術者はのきなみ高齢化し、引退する施工管理者も少なくありません。
若手がいないため技術を継承できないまま引退していく施工管理者も多く、新たな施工管理者を採用できずに会社を廃業せざるをえない企業もあります。
11:人材の減少に反して仕事の需要が増加している
前述の通り、近年施工管理者の人手不足は深刻な状況です。若者が建設業界に入ってきてもこれまで書いた理由などによってすぐに離職してしまいます。
それに対して、建設業界への需要ますます増えてきています。若手の施工管理者が激減している状態で需要は増えてきているので、ますます人手が不足している状況に陥っています。
施工管理の人手不足に対する対策9選
施工管理の人手不足の理由をご紹介してきました。理由は多々ありますが、今後ますます増えてくる建設業界への需要を踏まえると、施工管理のできる人材を早急に増やしていくための対策を打っていく必要があります。
どのようにしていけば、人手不足を解消できるでしょうか。若手の施工管理者を増やすことは国にとっても重要な課題であり、国で行っている対策もあります。
ここでは、建設業界に入って施工管理を担ってくれる人を増やすための対策を9個ご紹介します。
1:労働時間や給与体系を見直す
国で行っている施工管理者を増やすための対策として、「建設業働き方改革加速化プログラム」というものがありますが、その中の1つに長時間労働の是正があります。
労働時間が長い状況を改善するために週休2日制を導入するという取り組みです。この取り組みを実現させるために、労務費や機械経費、現場管理費などの経費を計上し、補正率の見直しを行います。
また、給与体系の見直しとして「建設キャリアアップシステム」を導入しています。経験や知識、実務能力、就業実績、社会保険の加入状況を見える化し、実績に応じて給与を支給できるように見直しています。
2:保険などの制度を整える
前述の通り、施工管理の人手不足の理由として考えられる1つに社会保険の未加入があります。
雇用への不安を解消するためにも、また社会保険未加入の企業だと国土交通省直轄の工事を受注できないという点からも、社会保険に加入するよう制度を整えることが重要です。
また、2017年度より社会保険未加入の技能労働者は国の公共事業に入れないことになりました。地方の自治体も同じようになってきていることから、社会保険への加入は急いで取り組むべき課題となっています。
出典:社会保険に加入していますか?|国土交通省
参照:https://www.mlit.go.jp/common/000998178.pdf
3:職場環境向上のために従業員の声を聞く
どれだけ制度が整って採用がうまくいき始めても、若手の離職がとめられなければ意味がありません。若手社員に長く建設業界にいてもらうためには、従業員の声をしっかりと聞いて職場環境向上に生かすことが重要です。
これにはヤフーなどで導入している1on1ミーティングが効果的です。これは上司と部下が定期的に1対1で行うミーティングのことです。
施工管理職の人は現場作業が中心となるため、社内のコミュニケーションが疎かになっている可能性が高いです。知らず知らずのうちに蓄積している業務や会社に対する不満などにしっかりと耳を傾けましょう。
4:業界や自社の魅力をアピールする
若者に施工管理者になってもらうためには、そもそも建設業界に対して若者に関心の目を向けてもらいう必要があります。3Kの印象が強く、関心の離れている建設業界に対して、若者に関心をもってもらうための対策として、業界や企業自体の魅力のアピールが必要です。
実際に建設業の魅力アピールを行っている事例として、大阪産業創造館発行のビジネス情報マガジン「bplatz」で企画する「ゲンバ男子」があります。ゲンバ男子では、中小製造業の現場で活躍している若者のかっこいい姿の写真などを掲載しています。
また、父親が働く現場での子供参観の実施や、大型重機への試乗会・見学会の実施などをして、小中学生の頃から建設業への接点を作るようにしています。
5:求める人材像を明確にする
これまで若手の多くが早期に離職してきた理由には、採用時に自社に合う人材を見極められていなかった可能性もあります。採用の時点で自社と合う人材をしっかりと見つけられるようにするためにも、求める人材層を明確にする必要があります。
出身学科や経験値だけでなく、どういった性格の人材であれば技術者として会社に合いそうなど、人材の要件をしっかりと突き詰めましょう。
6:人材募集の間口を広げる
施工管理者を増やしていくためには、募集の要件に幅を持たせることも必要になってきます。
たとえば、これまでは建築学科出身やCADを使える人といった条件をつけていたものを外し、出身業界や経験職種を問わず広く募集することで、建築業界と相性の良い人が見つかる可能性も考えられます。
7:勤務条件を明確にして求職者を募る
建設業は離職の多い職場であるだけに、もともと同業に勤めている人が勤務条件の改善を求めて応募してくることも多くあります。自社では従業員にどのようなことを求めるのかを明確にしておくとよいでしょう。
たとえば年間でどのくらいの現場を担当するのかや、同時並行で複数の現場を担当するかどうかなどが明確になっていると応募する人も働き方がイメージしやすくなります。それによって、入社後「こんなはずではなかった」といったミスマッチが起こるリスクが軽減されます。
8:人材の育成方法を見直す
若手技術者の不足は国としても課題として認識しています。政府が若手技術者や学卒未就職者、離転職者への育成を進めるために取組みを実施していますので、企業でもこれらを活用し若手の施工管理者を育成できるようにするとよいでしょう。
建設業に関する実習や座学、訓練を実施した場合には、経費や賃金の一部を助成する人材開発支援助成金があります。これらを活用して若手の施工管理者育成が可能です。また、政府から派遣されたものづくりマイスターに若手技術者を指導してもらうことも可能です。
出典:建設業の人材確保・育成に向けて(令和2年度予算案の概要)|国土交通省
参照:https://www.mlit.go.jp/common/001322117.pdf
9:業務の効率化を図る
若者の建設業界での離職率が高い理由として、前述の通り長時間労働などの課題があります。人手不足の解消のための雇用促進はもちろん必要ですが、同時に1人あたりの労働時間が短縮できるよう業務の効率化を図ることが重要です。
施工管理では紙での資料を多く使うことが多いですが、それらをクラウドサーバーでのデータ管理に変更したり、タブレット端末の導入によって携行品を減らすなどをすることによって、働き手のストレス軽減にもつながります。
施工管理の人手不足は課題を知って対策を練ろう!
施工管理の人手不足という状況について、その理由や対策方法をご紹介してきました。
施工管理は勤務時間が長く、異動なども伴うことのあるハードな仕事ではありますが、自分が手掛けたものが地図に残る達成感のある仕事でもあります。今後ますます増えるであろう需要を踏まえて、技術を受け継いでくれる若い施工管理者は必須です。
人手不足の理由を理解し、対策を練って施工管理をしてくれる若者に建設業界にきてもらいましょう。
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